伝習会 第63回
伝習会
〈 第六十三回 〉
春夜……北宋 蘇軾(蘇東坡)
【春宵一刻直千金 (春宵一刻直千金)】
(春の夜のひとときは、千金の値打ちがある)
【花有清香月有陰 (花に清香有り、月に陰有り)】
(花には清らかな香りがただよい、月はおぼろにかすんでいる)
【歌管楼台声細細 (歌管楼台声細細)】
(高楼の歌声や管弦の音は賑わいも終わって、今はかぼそく聞こえるだけ)
【鞦韆院落夜沈沈 (鞦韆院落夜沈沈)】
(人けのない中庭にひっそりとブランコがぶら下がり、夜は静かにふけていく)
春暁……日柳燕石(江戸時代末期の志士、香川県琴平町出身)
【花気満山濃似霧 (花気山に満ちて濃やかなること霧に似たり)】
(花の気は山に満ちて、いっぱいに霧がたちこめているかのようである)
【嬌鶯幾囀不知処 (嬌鶯幾囀、処を知らず)】
(鶯の声が美しく艶めかしく聞こえてくるが、どこで鳴いているのだろう)
【吾楼一刻価千金 (吾が楼一刻値千金)】
(ここ吾が楼上からの眺めは、一刻千金の価値があるのは)
【不在春宵在春曙 (春宵に在らず 春曙に在り)】
(かの蘇東坡がいった春の夜ではなく、春の曙をいうのではないか)
前の蘇東坡の七言絶句では、花の香が漂う朧月夜のもと、高楼から歌や音楽が微かに響き、中庭にはブランコがぶらさがり、しんしんと夜はふけていく、そんな春の夜は最高の値打ちがある、と詠っています。ところが、日柳燕石は春の夜もいいが、私のこの家の周りに訪れた春は、何と言っても夜が明け始める曙・朝に限る、と詠いかえています。
春の夕焼け、朝焼けの情景を思い描きながら、声に出して素読されてみては如何でしょう。