伝習会 第3回(改訂版)
伝習会
< 第三回 > (改訂版)
【 覆水盆に返らず 】…捨遺記(晋・265~420)の志怪小説集の中の話
(意味…覆水とは、こぼれた水のことで、盆は水などを入れる平たい鉢のことである。一度こぼれた水は二度と元の盆に戻らないことから、別れた夫婦は復縁しないことや、取り返しのつかないことの喩えとして使われます)
~ 捨遺記の原文に………
【若、能く離れて更び合わんとするも、覆水は定めて収め難し】と。
(そなたは、別れてもまた、元に戻れると思っているようだが、ごらん、盆からこぼれた水は、もう二度と元に戻れないのだよ)ここからの出典が故事になったものです。
その話は、太公望・【呂尚】は馬氏の娘を妻にしました。呂尚は働きもせず読書ばかりしていたので、妻は愛想をつかして離縁しました。
第二回でご承知のように、その後呂尚は周王朝(B.C1027年頃)の文王にみそめられ、大変出世をして【太公望】と呼ばれるようになりました。亦、斉の国の元祖にもなると、離縁した妻が再婚を求めてきました。すると太公望は水を一盆に取って地にこぼして「この水を盆に戻してみよ」と言いました。しかし、馬氏がすくえたのは泥ばかりで水は掬えませんでした。そこで太公望は「お前は一度別れたのに復縁を求めてきたが、こぼした水は再び盆に戻せないのと同じようなものだ」と言って断ったというお話です。
さて皆さん、太公望ともあろう人がこのような余りにも無慈悲な振る舞いをしたのでしょうか。太公望の時代にはまだ書物はなく、庶民で文字を読める人もほとんどいなかった。これは全くの作り話です。この話は志怪小説集の「志怪」即ち怪しい志しの一つでしょう。