伝習会 第85回
伝習会
〈 第八十五回 〉
【己立てんと欲して人を立て、己達せんと欲して人を達す】
論語(雍也第六)
(訳…自分が立ちたいと思ったら、まず、人を立たせてやる。自分が手に入れたいと
思ったら、まず、人に得させてやる)
~ 原文は【夫れ仁者は、己立てんと欲して人を立て、己達せんと欲して人を達す。能く近く譬えを取る、仁の方と謂うべきのみ】(自分が立ちたいと思ったら、先ず人を立たせてやる。自分が手に入れたいと思ったら、先ず人に得させてやる。このように、身近なところから始めるのが、仁者のやり方なのだ)実践を重視する孔子は、あくまで身近なところから出発しようとする。
人間の欲望には際限がありません。また兎角、自分さえ良ければ、という人もおります。一人勝ちは、必ず人から怨みを買います。なにごとも、
程々が大切ということではないでしょうか。(第八十回・止足の戒め参照)
この教えは、一般人に対する教えでもありますが、むしろ政治に携わる
人や企業の経営者、人の上に立とうとする人への教えで、何事をも、身近
な自分の身の上についての事がらを考える。ある事を他人にして上げようとした場合、それが自らの身の上に加えられた場合には、どうであろうかと、相似を近い自分の身の上について考える。こういう心掛けが大切と言っています。
老子も次のように言っております。
【将に之を奪わんと欲すれば、必ず姑く之に与う】と、自分が欲しかった
ら、まず人に与えなさい。しかし、自分が得る為に打算的や意図的にしたり、これ見よがしに恩着せがましくやったのでは、逆に、人格を疑われ、
信用を失うことになってしまいます。あくまで陰徳を積むことが肝心です。
日本の言葉に、【出入口】、【出入国】、【出納】、【呼吸】、【損して得とれ】、
【負けるが勝ち】、【お先にどうぞ】などがありますが、全て出す事が先に
なっています。【入出口】や【入出国】などという言葉はありません。
大切なことはまず、出さなければ入らない、人に譲る気持ち、いわゆる
謙譲の美徳でありましょう。~