伝習会 第19回
伝習会
〈 第十九回 〉
【 言 必 信 、 行 必 果 】…論語(白路第十三)
(訳…言・言ったことは、信・必ず約束を守る。行・やりかけた仕事は、果・必ず最後まで果す)
~ 昭和四十七年九月二十九日は、田中角栄・周恩来両首相が「日本国政府と中華人民共和国の共同声明」に調印し、日中国交が樹立した記念すべき日です。
其の時、周恩来首相から【言必信 行必果】の色紙が田中首相に送られました。それに対し、田中首相は【信為万事之本】(信は万事之本と為す)と即座にしたため返礼致しました。 帰国後、田中首相は一部の碩学から失笑、批判されたことがありました。
それは、次の孔子と子貢の問答に由来します。原文を要約しますと、子貢が孔子に
『どういう人が「士」(立派な人物)と言えますか。』と尋ねた時、孔子曰く、
1.自分の行動に責任を持って、恥じとなるような行動はしない。また、外国へ使者とし
て使えた時、君主を辱しめるような交渉事はしない。これが一番の「士」であると。
2.二番目は親、兄弟に孝養を尽くし、郷土の人々から有徳と言われている人が二番目の
「士」であると。
3.三番目が表記の【言必信、行必果】の人を言っています。この三番目の人は、どう言う人なのか、それはこの言葉の後に『經經然として 小人なるかな』(言ったことは必ず守るし、行いは最後まで果たすが、まあ、こう言う人間は融通が利かない小人物である)と
いうことから、三番目の「士」と言っています。
その碩学?(修めた学問の広く深いこと、またその人)がいうには、“田中角栄は周恩来首相から表記の色紙を喜んで受け取ったと、しかしその色紙の意味は、【貴方は、三番目の「士」です】と言われたのですよ。若し、田中角栄が論語を知っていたら無邪気に喜んでばかりはいられなかったはずだ“と、失笑、批判しました。
さて、この「士」の解釈ですが、私は、この【士】(立派な人物)は、実は有能な官
吏(役人)のことで、役人を評価する基準を言っているのではないかと思います。
中国では【水を飲む時には井戸を掘った人を忘れない】の故事に倣って、田中角栄を
尊敬し感謝しています。一国の首相を小馬鹿にしたような言動とは考えられないので
すが、皆さんは、どうお思いでしょうか。むしろ、お互いに信じ合う事が大切です。両国で今日お話したことは、未来永劫、約束をまもりましょう。そして、それを実行して、最後まで果たしましょう。そう言う意味を込めて送られたものだと、私は確信しております。 今、中国では教育の一環として、「中国伝統道徳」のテキストに【言必信、行必果】が、【言行一致】(言う事と行動が一致していること)として称賛の意味で使われているそうです。論語読みの論語知らずの私ですが、叔父田中角栄の名誉と功績を守る一文になればと、敢えて、掲載させて頂きました。~