伝習会 第61回
伝習会
〈 第六十一回 〉
【性相近し 習い相遠し】……論語(陽貨第十七)
(訳…人間の生まれながらの【性】というのは、誰でも、ほとんど共通して持っている 先天的な性質であって、それは、そんなに個人差があるわけではなく、お互いに似ており、近いものである。しかし、その後、身につけた習慣や学習をしたかによって大きな差や違いが出てくる。)
~ この次の章に【唯だ上知と下愚とは移らず】とあります。ただ、生れつき の天才と鈍才はいくら学習しようが、習慣が違おうが移動するものではない し、埋まらないものだ。と言っております。こう言う人は比較的少ないですが確かにおりますね。孔子は、また、次のようにも言っております。
【教え有りて類無し】(論語衛霊公第十五)と。人間を作るのは、人の種つまり、生れつきの身分や人種の差ではないということです。人は育つ環境や教えや学びによって変わる。人間は全て平等であり、誰でも教育を受ければ偉くなれる。とも言っております。
殷の四代目の王・太甲(太宗)が即位した時、名補佐役の宰相伊尹が君主としての心構えを諌めた言葉が【書経】(五経の一つ)にあります。それは、太甲をいくら諌めても行状が改まらないのを見て、いつまでも不行跡な習慣を続けると、
【習い性と成る】(書経)が生れつきの天性になってしまい、生まれつきの資質もさることながら、習慣の力も無視できないし、また恐ろしくもありますと諫言しました。後に太甲は改心し、太宗と呼ばれる名君となりました。
【三つ子の魂百まで】という言葉もありますが、習慣や心の形成の基礎は 【つ】が付く年令、一つ(一歳)、二つ(二歳)……九つ(九歳)までの教育、 躾、愛情が大切だと言われております。ただ人生は、どんな境遇であっても、
その後の人との出会いや学びによって、どのようにも開かれていくという可能性を秘めているのも事実です。習慣は第二の天性とも言われる所以ではないでしょうか。~