伝習会 第64回
伝習会
〈 第六十四回 〉
『香炉峰下 新たに山居をトし 草堂初めて成り 隅たま東壁に題す』
(香炉峰の山中に住むとことして地勢を占った。拙宅が完成したので、東の壁に詩を掛けた)
【香炉峰の雪は簾を撥げて看る】…白居易 (白楽天) 七言律詩
(訳…香炉峰の雪景色は、簾を巻き上げて、布団の中から見ることができる)
~ 白居易の字は白楽天、根が楽天的で、役人の時代、地方に左遷されてもなんのその、悠然と草堂に構え、愛妻と共にのんびり地方暮らしを楽しみながら、詩作に励んだとか。この句は、
【遺愛寺の鐘は枕を欹てて聴き】と対句になっています。遺愛寺の鐘が響くと、枕から頭を上げて聞き入り、香炉峰の雪は、簾を巻き上げて布団の中からしばし眺める、となっています。
長閑な、なんとも言えない風情ではありませんか。
枕草子で、かの有名な清少納言が、宮仕えしていた時、中宮定子から、御所に雪が積もった日に、“少納言、【香炉峰の雪いかならん】”と問われて、 少納言は、即座に簾を上げて答えたということでも知られております。 この詩を頭に置いた中宮定子の謎かけと、それを即座に悟った清少納言の機知なる対応に、ただただ、驚くばかりです。宮廷で雪見に興じている情景が、時代を越えて目に浮かぶようですね。我が終の棲家から眺める東山連邦や奥に聳える守門岳の雪景色も、香炉峰の雪見に勝るとも劣らずの絶景です。お立ち寄り下さい。~