伝習会 第96回
伝習会
〈 第九十六回 〉
【一将功成って万骨枯る】…晩唐の詩人.曹松の「己亥の歳」
(訳…一人の将軍が手柄を立てたその陰には、数知れない人々が犠牲となって
白骨となり、朽ち果てているということ)
~ これは、次の七言絶句にある言葉です。
【沢国の 江山 戦図に入る】(「沢国」は河や沼の多い地域、「江山」は川と山。沢国の
(沢国江山入戦図) あたりの山も川もすべて戦場となって)
【生民 何の計あってか樵蘇を楽しまん】(「樵蘇」は、木を切り草を刈って煮炊き
(生民何計楽樵蘇) をすること。人々は長閑な生活を楽しむ術を失ってしまった)
【君に憑む 話す莫れ封侯の事を】(君に御願いしたい。諸侯に封じられたいなどと
(慿君莫話封候事) 言わないで欲しい)
【一将 功成って万骨枯る】(一人の将軍が手柄を立てたその陰には、数知れない多くの
(一将功成万骨枯) 兵の尊い命が白骨となって朽ち果てているのだから)
あの、悲惨な戦争を体験されて来られた方は、この思いに胸を痛めておられる事でしょう。 618年に隋王朝に代わった唐王朝も、己亥の歳
(879年)に起った“黄巣の乱”に端を発して、907年に滅亡しました。これはその戦乱の中で詠まれた句です。この時、将軍だけが功名を得て、その下で犠牲になって働いた多くの兵士が顧みられなかったことを嘆いた詩です。戦争だけではありません。現代社会においても同じであります。成功者の陰には、どれだけ多くの人の支えがあったかを、決して忘れてはならないという、戒めではないでしょうか。
【古来征戦、幾人か回る】(昔から戦に行った者で何人が帰ったであろうか)
王翰の七言絶句「涼州詩」~