伝習会 第111回
伝習会
〈 第百十一回 〉
{【子、子産を謂う、君子の道、四あり。】
(訳…孔子が、子産のことをこう言われた。「子産には、君子の道が四つあった」)
【其の己を行なうや恭】
(訳…人に対して、己の行動は恭(うやうや)しく、慎重であった。)
【其の上に事うるや敬】
(訳…君主や目上の人を敬(うやま)った。)
【其の民を養うや恵】
(訳…人民を養うには、恵み深かった。)
【其の民を使うや義】}…論語(公冶長第五)
(訳…人民を国家事業に使役する時は、彼らの生活条件や時、所を考えた。)
~ 鄭の宰相であった子産は孔子の先輩で、子産が亡くなった時には泣いた位、大変尊
敬していた人でした。その子産について、孔子が表記の言葉を言っております。
子産は、本当に出来た人で、絶対に無理をせず、それでいてどこまでも信念に基づ
いて、自分の考えを遂行してゆく力を持っていました。彼が初めて宰相になった時、
信念に基づいて、自分の考えをどんどん遂行しました。その為、民衆から怨嗟の声が
上がり、子産を殺そうという声まで起りました。ところが、数年経つと、いつの間に
か逆になって、礼賛と感謝の声に変わったというエピソードもあります。
もし、本当に自分が信ずるところの立派な政治を行なおうとすれば、民衆の中の利
己的で、私利私欲の勢力と、必ずぶつかるものです。そうして、反対の声が上がり、
やがて、圧力団体の動員となり、脅迫行動、暴力行動へ転回しがちであります。政治
家も大体こうなると参ってしまうものですが、子産は毅然として闘い抜き、しかも逆
に感謝されたというのですから、孔子が自分の理想とした政治を実現するに、子産の
ような人に思いを馳せ、尊敬したのではないでしょうか。
ことに、現在の政治家を見るにつけ、信念といいますか、政治の要諦は何たるか、
を考えない。そして、威厳のなさ、軽薄な人が、今の政治の貧困、混乱を招いている
ものと思っています。【威あって猛からず】(威厳がありながらも決して猛々しくない)、
【寛にして畏れられ、厳にして愛せらる】(寛容にして、一方では畏れられる厳しさ
を持たなければならない、また、厳しさにも愛される一面がなければならない)。
子産を見習って欲しいものです。~