伝習会 第124回
伝習会
〈 第百二十四回 〉
【乃公出でずんば蒼生をいかんせん】…世説新語
(訳…この俺さまが出ないで、誰が民を救う事が出来ようか。オレがオレがと、でし
ゃばる事)
~ もとの言葉は、【安石出でずんば蒼生をいかんせん】と言います。
東晋(317年頃)の時代に、【安石】(謝安の字)という人がいました。
この人は大変才幹があり、家柄も立派で名士として重んじられていました。
世が乱れ、人民が塗炭の苦しみに喘いでいた時、「安石待望論」の声が
上がり、人々は口々に【安石が出馬して政治をとらなければ、蒼生(人民
の)苦痛は救われない】という合唱となりました。
文人肌の【安石】は、病と称して出仕を拒み、山林で風流を楽しんでい
ましたが、世論の声に抗しきれず、ついに政界入りを決めたのです。
【安石】は度重なる困難を見事に克服して、民衆の期待に応えた事はいう
までもありません。しかし、この【安石出でずんば】という言葉がいつの
間にか、【乃公出でずんば】に変わってしまいました。始めは熱烈な出馬
要請の他薦のことであったのが、今では、【乃公】、つまり我輩、俺様、我
こそは、という自薦の弁として通用するようになったということです。~