伝習会 第157回
伝習会
〈 第百五十七回 〉
【桐一葉落ちて天下の秋を知る】…片桐且元が詠んだ句
(訳…桐の一葉の落ちるのを見て秋の気配を感じること。転じて、僅かな兆候から、
世の中の移り変わりの萌(きざ)しや大きな大勢を予知すること)
~ 漢の時代に【劉安】が書いた【淮南子】に次のような言葉があります。
【一葉落つるを見て歳の将に暮れなんとするを知り、瓶中の氷を賭て、
天下の寒きを知る。近きを以って遠きを論ずるなり】(一枚の桐の葉が落ち
るのを見れば、まさに年の暮れが近づいたことがわかるし、瓶の中の水が凍っている
のを見れば、世の中全体が寒くなったことが分かる。これは手近なものから遠いもの
を推察する例え)この句から、且元が詠み、日本でも、桐の落ち葉が秋の変
化を象徴するものとして、和歌や連歌に多く詠まれたといわれております。
【片桐且元】は【豊臣秀吉】の家来で、しかも賤ヶ岳の戦いで七本槍の一
人としてその名をはせた武将でした。その【片桐且元】が【徳川家康】と
豊臣家存続の交渉に努めたが意のままにならず、むしろ、【淀君】を取り巻
く【大野治長】らに二心在りと疑われ、豊臣政権の行く末を案じながら、
大阪城を去ることになりました。【桐】は【豊臣の家紋】、それに、自分の
【片桐】とを合わせ、両大名が没落する予兆を詠んだ句と言われています。
この、【且元】の苦衷を坪内逍遥が戯曲【桐一葉】に纏め、豊臣家衰亡
の前夜を描きました。高浜虚子も【桐一葉日当たりながら落ちにけり】と
詠んでおります。他に、変化の予兆を表す、次のような言葉があります。
【霜(しも)を履(ふ)んで堅氷(けんぴょう)至(いた)る】…易経
【山雨来(さんうき)たらんと欲して風楼(かぜろう)に満つ】…許渾の詩の一節~