伝習会 第162回
伝習会
〈 第百六十二回 〉
【千丈の堤も螻蟻の穴を以って潰ゆ】…韓非子
(訳…千丈もある巨大な堤防も、ケラやアリの小さな穴が原因で決壊するのだと
いう。転じて、どんな大きな事故や不始末も、小さな過失や一寸した油断が
原因で起きることが多い。小さなことでも疎かにするな、という忠告です)
~ この後に、【百尺の室も突隙の烟を以って焚く】(百尺四方もある大邸宅
も、煙突の火の粉が原因で焼け落ちてしまう)と続きますが、やはり一寸したこ
とでも、決して疎かにしてはいけないという戒めの言葉です。
物事には、この〈兆し〉・〈萌す〉というものがあるように思います。
ところで、最近の世相を見るにつけ、まさに、この先人の言葉を忘れた企
業人が如何に多い事かと、思いを致しております。決して、よそ事ではな
く、明日は我が身と思い、心して行かなければならないと思っています。
〈兆し〉を感じる、〈予兆〉を気づく、そんな感性を研ぎ澄ますことも、
また大切かと思います。(第百五十七回参照)。あまり慎重になり過ぎると、
肝心の決断が鈍るかも知れませんが、〈詩経〉には【戦々兢々として深淵
に臨むが如く薄氷を踏むが如し】とあります。僅かな危険信号も見落と
さず、四方八方に気を配り、つねに緊張感を持って、日々の仕事に取り組
みなさいと戒めています。また、〈易経〉には【霜を履んで堅氷至る】
とあり、秋になって霜が降り始めると、やがて堅い氷が張り詰め厳しい冬
がやって来る、冬支度をしなさいと。やはり、霜という〈前兆〉があり
ます。お互いに心して行きたいものです。~