伝習会 第9回
伝習会
〈 第 九 回 〉
【 断 腸 の 思 い 】“世説新語”選者劉義慶の「黜免」
(訳……腸がちぎれるほどに激しい悲しみのこと)
~ これは世説新語の中にある次のような出来事からの故事です。
晋の武将桓温が船で蜀へ行く途中、山峡を渡っていた時、従者が猿の子供を捕らえて船に乗せて連れて行きました。これを見た母猿はビックリして、どこまでも悲しい泣き声で叫びながら追い
続けました。漸く、船が岸に近づくと母猿は舟に飛び移って子猿の所に行き、抱きかかえると同時
に息絶えて死んでしまいました。その母猿のお腹を割いて見ると、腸がずたずたに千切れていたそうです。ここから、腸がずたずたに千切れるほどに、悲しいことを【断腸の思い】、という故事になりました。桓温はこのことを聞いて激怒し、従者を部隊から追い出しました。10ヶ月もお腹の中に宿しまさに自分の分身、それが親の思い、そんな気がいたします。動物を愛する気持ち、人を
思いやる気持ちは人間として最も大切なことではないでしょうか。
原文は【腸皆寸寸に断えたり】とあります。~
【夏草の上に置ける朝露よりも哀れ果敢なき一生を送った我が子の身の上を思えば、いかにも断腸の思いがする。しかし翻って考えて見ると、子の死を悲しむ余も遠からず同じ運命に服従せねばならぬ。悲しむものも悲しまれる者も同じ青山の土塊と化して、ただ松風虫鳴のあるあり。いづれを先、いづれを後とも分け難いのが人生の常である】…西田幾太郎の【我が子の死】より