伝習会 第10回
伝習会
〈 第 十 回 〉
【 慎 独 】(独を慎む)…大学(伝六章)、中庸(第一章)
(訳…人が見ていようがいまいが自らの行いを慎んで、良心に恥じる事のないようにすること)
~ 元文は【君子は必ず其の独りを慎む】となっています。立派な人物(経営者・リーダー・人の上に立つ者もしかり)という者は、自分一人でいる時、つまり他人が見ていない時でも己の行動を律して、決して天や良心に恥じる行動はとらない、という意味です。「大学」ではこの【慎独】を非常に重視し、人物になるための一番の基本としています。
また、老子も【天網恢恢疎にして漏らさず】(天という網は、とてつもなく大きく粗い目であるが、決して悪は見逃さない)といいます。人が見ていないから、何をしても 分からないと思っていても、天は必ず見ている。如何に一人になった時の行動が大切かを言っております。
この【独を慎む】という言葉は、自らを向上する為にも、また【信頼】を得るも失うもこの一字にあることを、心される事が大切です。
後漢(A.D25年)の第四代和帝の時代に、楊震という人が地方の長官に赴任 した時、楊震の幼友達が夜中に賄賂を渡そうとしました。「誰も見ておりませんから、どうかお納め下さい」と言ったところ、楊震は『天知る、地知る我知る、子知る』といい、誰が知らないと言えようか。天が知り、地が知り、私が知り、貴方が知っている。と言って諌めました。これは『楊震の四知』として知られ自らを律する人として尊敬されました。次に、【独りを慎む】と類似の故事を列記します。
1.【暗室(あんしつ)を欺(あざむ)かず】(暗い所でも身を慎む)……宋史
2.【屋漏に愧じず】(家の奥で、人が見ていない所でも、恥かしい事はやらない)書経
3.【君子独立して影に慚ず】(立派な人物は、只一人でいても自分の影に対してさえ、
恥ずかしいような振舞いはしない)……晏子春秋
これと反対の故事に……
☆【網、呑舟(どんしゅう)をもらす】…史記(人が作る法の網は、いくら目を細かくしても逃れる悪者は必ずでる) ☆【小人閑居して不善をなし、至らざる所無し】…大学(つまらない人間は暇だとロクな事をしない)~